学術論文

「組織従業員のキャリア・プラトー現象に関する研究―従業員の組織内キャリア発達の観点から」博士論文

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 要約
Ⅰ.問題意識――現代におけるキャリア・プラトー現象研究の意義
 本論文はキャリア・プラトー現象(以下「プラトー現象」と略す)を理論的、実証的に研究しましました。プラトー現象の早い時期の研究によれば、それは「現在の職位以上の昇進可能性が非常に低いキャリア上の地位」と定義されます。プラトー現象とは組織における管理職位に関する現象ですが、「昇進の可能性が非常に低い」というのは個人の意識でもあります。近年わが国の多くの企業で、企業内の年齢構成・学歴構成の変化によって管理職位の不足という事態が発生してきましました。つまり、プラトー現象は労働需給が変容する状況のもとで、人的資源管理制度と結びつき、現代の組織で普遍的にみられる現象になりつつあります。 プラトー現象は従業員および組織にとってどのような意味をもつのでしょうか。
 第1に、組織内の昇進が従業員にとってどのような意味をもつかが問われます。組織が従業員に供与する重要な報酬の1つは昇進です。したがって、多くの従業員は組織の内部でより上位の管理職を目指す訳です。すなわち、従業員にとって所属組織における将来の昇進可能性が低いことは組織内の勤労生活に対しても、また組織外の生活に対しても大きな影響を与えます。
 第2に、組織にとって、プラトー現象が提示する意味が問題となります。プラトー現象の結果、多くの従業員が所属組織から大きい経済的報酬や権力を得られず、また組織の外部において人々から評価されないことによって、従業員のモチベーションや業績の低下、退職などのマイナスの影響をもたらす可能性があります。

Ⅱ.本論文の構成と概要
 本論文はⅠで述べた研究上の意義に基づき、第1部(第1章から第3章)はプラトー現象の実態および概念的基盤を解明するための準備的作業にあてられています。第2部(第4章から第8章)はプラトー現象に影響を与える要因について、第3部(第9章から第13章)はプラトー現象によって生じる影響について、実証的に解明することを目的としています。そして、最後に人的資源管理への実践的提言についての終章がつけ加えられています。

第1部 組織におけるキャリア・プラトー現象の実態とその概念的検討
1.わが国の企業組織における従業員の昇進(第1章)
 管理職位が増加しない状況のもとで従業員の昇進志向が大きく変化しないとすると、全体的に昇進の時期も遅くなるとともに、従業員間の昇進競争が激化します。このように組織においてプラトー現象が着実に進行しています。
2.キャリア・プラトー現象の概念的検討(第2章)
 先行研究における定義をレビューした後、本論文ではプラトー現象を、「組織の従業員(管理職および非管理職を含む)が組織内の管理職階層において、現在以上の職位に昇進する可能性が将来的に非常に低下する現象」と定義しました。
 また、プラトー現象を組織における他のキャリア発達現象と比較することによって、総合的に検討する必要があります。キャリア・プラトー現象は組織の職位におけるプラトー現象ですが、その他の組織現象のうち、主に担当している職務や、社内の部署への配属などにおける「プラトー現象」とどのように異なるかについては、これまで検討されてこなかったからです。
 さらに、プラトー現象を実証的に分析するさいには以下の2種類の論点が必要です。
 (1)多様な業種、組織、職種に所属する従業員を横断的に対象とし、全般的なプラトー現象を検討すること。
 (2)業種、組織、職種などによって従業員を細分化して対象とし、その対象ごとにプラトー現象を個別に検討すること。
3.プラトー、ノン・プラトーの区分(第3章)
 従業員をどのような属性、特徴に着目してプラトー状態の従業員(以下「プラトー」と略す)と現在プラトー状態に至っていない従業員(以下「ノン・プラトー」と略す)とに分類するかは重要な問題です。本論文では、両者をリンクし対象者をプラトーとノン・プラトーに区分する基準も採用しています。そして、プラトー現象を主観的基準(昇進可能性知覚)、客観的基準(現職位在任期間の長さ)、主観的基準および客観的基準の両者を統合した基準の3つの基準によって全体として分析を行うことを提案します。それによって、ある人的資源管理施策がプラトー現象の主観的側面に影響を与えるのか、客観的側面に影響を与えるのかが明らかにされます。
第2部  キャリア・プラトー現象に影響する要因

1.従業員のキャリア・プラトー現象に影響する要因の分析(第4章・第5章)
  第1に、「多数の職位を多数の候補者で争う」低い職位の方が、「少数の職位を選抜された少数の候補者で争う」高い職位よりプラトー現象が顕著にみられました。
  第2に、職能資格滞留年数について、現在の職能資格における滞留期間が長いことは大企業の課長では客観的プラトー化(現職位在任期間の長期化)に影響していました。
  第3に、転職経験があることは主観的プラトー化(昇進可能性知覚の低さ)に影響していました。
  第4に、女性は男性より主観的にプラトー化していることが明らかにされました。
  第5に、年齢が高く、勤続期間が長いことは主観的および客観的プラトー化に影響していました。
2.組織の人的資源管理施策とキャリア・プラトー現象(第6章)
 プラトー現象は従業員の職位と結びつきが強いといえます。そのため、組織の人的資源管理がどの程度プラトー現象に影響を与えているかを、大企業の課長および課長が所属する組織の人事担当管理職に対する調査(以下「大企業調査」と略す)によって分析しました。全体として、組織の人的資源管理は主観的プラトー化より客観的プラトー化に関連していました。また、早期退職優遇制など従業員が自発的に参加する制度や、昇進試験など客観的に結果が明確になる制度がプラトー現象に影響を与えることが示されました。
3.昇進の目標設定とキャリア・プラトー現象(第7章)
 多くの組織の目標管理やCDP(キャリア・ディベロップメント・プログラム)において、職務上の目標の設定やそれに基づく能力開発計画が実施されています。そのさい、従業員自身の昇進に関する目標設定の状況によって自己への期待が高まり昇進可能性知覚が高まることがあると考えられます。昇進の目標設定とプラトー現象との関係を大企業調査によって分析した結果、以下の3点が明らかにされました。
 (1)将来の昇進目標(職位)が高いほど、主観的にノン・プラトーでした(昇進可能性知覚が高い)。
 (2)設定した昇進目標に対する受容性が高いほど、主観的にノン・プラトーでした。
 (3)途中段階の目標を設定しているほど、主観的にノン・プラトーでした。
 すなわち、昇進目標の設定は主観的にノン・プラトーであることに影響していました。
4.企業文化とキャリア・プラトー現象(第8章)
 個々の人的資源管理施策がプラトー現象に影響を与えるかどうかは必ずしも明らかではありません。このことから人的資源管理とプラトー現象との関係を検討するにあたって、システム全体に関係する企業文化的な視点が有効です。そのさい、昇進に関する企業文化を、敗者復活戦や抜擢人事など外的に観察可能な組織の雇用・昇進慣行と、課長が認知する所属組織の管理職選抜システムに分類しました。
 大企業調査の結果、プラトー現象は雇用・昇進慣行上の類型の差異にかかわらず、どの組織にも普遍的にみられる現象であることが示唆されました。また、管理職選抜システムの認知類型別にプラトー現象を比較した結果、主観的プラトー化の程度に差はみられなかったが、所属組織が早期エリート選抜型であるとする課長は、同期横並び型または競争継続型とする課長より客観的にプラトー化していました。

第3部  キャリア・プラトー現象がおよぼす影響

1.キャリア・プラトー現象とキャリア意識、行動・業績(第9章・第10章)
 先行研究の分析から、組織内における将来のキャリア上の展望を持ちにくいプラトーとノン・プラトーのキャリア意識は異なると考えられます。また、人的資源管理上客観的把握が可能という点でキャリア意識より重要なのは行動・業績です。そこで、プラトー現象が影響するキャリア意識、行動・業績についての仮説を設定し、4回の質問票調査によって検証しました。それによると、主観的にプラトーであることはほとんどすべてのキャリア意識が低いことに影響していました。また、客観的指標であるため人的資源管理上把握可能であるという点で重要な客観的プラトー化は組織コミットメントの低さおよび転職意思の高さに影響していました。
2.キャリア・プラトー現象とイメージ(第11章)
 プラトーとノン・プラトーのイメージを比較することによって、両者の実際の職務業績や転職行動の差異の予測が可能です。実証分析の結果、従業員の客観的プラトー化は自己のキャリアや職場に対する情緒的な評価の低さに影響していました。
3.キャリア・プラトー現象と組織の職務設計(第12章)
  職務とプラトー現象との関係を考察するさいには、従業員が自己の職務の特性をどのように認知しているかが重要です。そして、プラトー現象と職務特性との関連が明らかにされれば、従業員の職務設計を行うさいプラトー化を考慮する必要があります。実証分析の結果、主観的にノン・プラトーであることはほぼすべての職務特性の充実に有意に影響していました。それに対して、客観的プラトー化はほぼすべての職務特性に対し有意な影響を示しませんでした。つまり、現職位在任期間が長いからといって自己の職務の充実度を低く評価することはないことが明らかにされました。
4.キャリア・プラトー現象と昇進に対する期待(第13章)
 期待理論の枠組みで昇進可能性知覚と行動・業績との関係が明らかにされれば、プラトー現象研究と期待理論における先行研究との統合が可能になると思われます。
 大企業調査の結果、主観的にノン・プラトーであることは認知された職務業績の高さおよび転職意思の低さに対して有意に影響していました。つまり、昇進可能性知覚は期待理論において従業員のモチベーションを高める「昇進の期待」に代わり得る変数であることが明らかにされました。

Ⅲ.組織の人的資源管理への実践的提言

1.低い職位でのプラトー化の可能性に対しては、管理職はCDPなどを利用して、部下のキャリア目標や昇進志向を把握する必要があります。管理職は部下にプラトー化の傾向がみられる場合、その傾向がモチベーションの低下に結びつかないように、社内専門職として専門的能力を育成するように仕向けることも1つの方法です。
2.中途採用者の主観的プラトー化については、前職のキャリアを最大限反映させる中途採用者の処遇システムを構築することが求められる。さらにその基礎的条件として、組織内の職務をISO基準などのグローバル・スタンダードに基づき再設計することが必要です。
3.女性が男性より主観的にプラトー化していた点に対しては、組織においてメンタリングの機能を充実させる必要があります。メンタリングとは「知識や経験の豊かな人々が未熟な人々に対して組織内のキャリア発達を促進するための支援活動を一定期間継続して行うこと」です。有能なメンター(メンタリングを行う従業員)はプロテージ(メンタリングを受ける従業員)にとって将来の自己のキャリア・モデルとして目標の対象になることがあります。すなわち、女性に対する有効なメンタリングは昇進にプラスの影響を与える可能性があります。
4.昇進目標の設定と主観的プラトー化との関係から、組織のCDPの運用に対して以下のような点が示唆されます。 
 第1に、非現実的に高くならない範囲で高めに目標を設定する。
 第2に、目標設定過程において、組織における空ポストの存在や昇進確率、さらに自己の能力やこれまでの職務業績を十分考慮に入れて納得性の高い目標を設定する。
 第3に、自己のキャリア形成について点検や確認を行う節目の年齢時点で途中段階の目標を設定する。

働く人のキャリア発達やそのための組織の関わりなどの問題に興味をお持ちの方は是非お読み下さい。

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